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第5話 梅おにぎり

Author: 雨音休
last update publish date: 2026-04-11 10:40:35

 村の広場。

 トウマたちは木製のベンチに並んで腰掛けていた。

 ゲーム内は昼間であり太陽が出ている。近くにある桜の木が花々を満開に咲き誇らせていた。そよ風が吹いて、花びらがチラチラと地面を舞う。木枝が揺れる音がした。

 大きめの梅おにぎりを、ウミが両手で持ってむしゃむしゃと食べている。モフモフと尻尾を振っており、ご機嫌のようだ。満面の笑みを浮かべている。

「美味しいですぅ、美味しいですぅ」

「そりゃあ良かった」

「ご主人様、ありがとうございます」

「味わって食えよ」

 梅おにぎり、200ヴァル。

 道具屋で買ってきたものだった。手痛い出費である。

 トウマは広場の光景を眺めた。中心には噴水がある。女神像が肩にかつぐ壺から水が流れていた。水しぶきに虹がかかっている。

 無駄に綺麗だな。

 ……この世界、見た目だけは優しい。

「トウマ」

「何だ?」

「綺麗ですね」

「噴水のことか?」

「はぁい」

「そうだな」

 辺りには他プレイヤーたちがちらほらといて、お互いの同伴者と会話をしていた。それらの顔色はどんよりとしたものである。

「……食べ物を寄越せよ」

 どこかで、かすれた声がした。

 ドキッとして、トウマは両腕を胸に組んで警戒する。遠くにいる男の視線が――ウミのおにぎりに張り付いている。

 ヴァルに困っているのは想像がつく。

 だけど、このゲームはそんなに難易度が高いのか?

 トウマは気づいた。人々は武器を持っているのだが、防具は装着していない。

 疑問に思い、ステータス画面を出してチェックをした。

 そこで理解する。

 このゲームには防具が無い。

 代わりに服が、防具としての機能を果たしている。

 服の魅力が高いほど防御力も高いようだ。

 ふと知らない女性プレイヤーが歩いてきてトウマに声をかけた。

「こんにちは!」

「ん? ああ、こんにちは」

 ステータス画面からトウマは顔を上げる。

 その女性プレイヤーは質の良い青いケープを羽織っている。初心者では無さそうだ。

「君君、もしかして初心者さん? もうギルドには入っているの?」

「いや、まだだが」

「そうなんだ。良かったらうちのギルドに入らない? 初心者さんなら、私たちはクエスト情報を提供できるから、良い話だと思うけど?」

 女性プレイヤーの視線はトウマではなく、ウミを値踏みしているようにも見えた。

 トウマは左手をあごに当てる。

 ここは慎重に選ぶべきだろう。

 あごから左手を離した。

「いや、今は入る気が無いんだ」

「ふーん、それはどうしてなの?」

「このゲームに慣れてから入ろうと思っている」

「そっか。じゃあ良かったら、ゲームに慣れた頃合いに連絡してよ。フレンド登録しても良い?」

「ああ、いいぞ」

「ありがとう」

 女性プレイヤーとトウマはフレンド登録を交わす。

「うちのギルドはメルヴィローナって言うんだ。良かったら検討してみてね」

「分かった」

「またね!」

 手を振って、女性プレイヤーはまた違うプレイヤーの元へと歩いて行った。

 勧誘を引き続き行うようである。

 次のプレイヤーにも彼女は同じ言葉をかけていた。

(初心者を囲って、使う側か?)

 いや、善良な人である可能性を否定はできない。

 トウマはため息をつきつつ、隣のウミの顔を眺める。

 すでに梅おにぎりを食べ終えており、ウミの顔はきょとんとしていた。ほっぺたに米粒がついている。

「ご主人様、どうしてギルドに入らなかったのです?」

「弱いギルドだったら困るからな。稼げない」

「稼げないかもしれませんが、一緒に成長していく楽しさはありますよ?」

「楽しさでは食えん」

「でも、みんなで助け合えば……」

「助け合えば報酬を分けなければいけない。それじゃあ効率が悪い」

「効率ってそんなに大事ですか?」

「人生は効率だ。それよりウミ、ほっぺに米粒がついているぞ」

「え、あ!」

 ウミがほっぺたの米粒をつまみ口に入れた。頬を赤くして恥ずかしそうにする。

「もっと行儀良く食べろ」

「これは! ケアレスミスですぅ」

「不注意だな」

「うー」

 うなり声を上げるウミを尻目に、トウマは立ち上がった。

「とりあえず、飯を食ったのなら行くぞ」

「あ、はぁい。ご馳走様でした!」

 ウミはステータス画面を出してチェックしている。トウマが覗き込むと、満腹度は60%以上に回復していた。

「今度こそ狩りに行くぞ」

「あ、はい。お願いします」

 地面に足をつけるウミ。

 並んで歩き出す。

 広場を出て、村の北出口へと向かった。二つの規則的な足音が響く。

 トウマの持ち金、現在320ヴァル。

 ……あと一食食べたら、底が見える。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
輪廻
梅おにぎり一つで結構回復してるけど、戦う度に空腹になると考えるとコスパ悪そう……
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